2023/01/23イベント
フランスの哲学者マルク・ソーテが「考えの打ち合いの場」として始めたという哲学カフェ。
「フランクな場で、もっと気軽に哲学を議論したい」という創始者の思いを継いで、ワオ高校では今までも週に1度、哲学カフェを実施してきました。
そんな「気がつけば考えている自分に驚く」体験を一般の方にも広く味わっていただこうと、「ワオ高・秋の哲学フェス2022」に合わせて、哲学カフェをオープンな場として公開。
参加される皆さんには、身近で気になる「問い」に対して哲学者の思想をヒントに考えを深めていくために、「#ジューダイクエスト」として設定した10題をテーマに考えていただきました。
第10回12月9日(金)のテーマは「Q10:将来が不安。どうしたらいい?」でした。
今回は中高生にとって共有しやすいテーマですね。
いつものように、提示された選択肢「A:考えないようにする B:お金を貯める」のどちらかを選んでもらうと、Bを選んだ参加者が多いようです。
Bを選んだ参加者「所詮世の中お金だから。」
Bを選んだ参加者「考えないようにしても不安が解消される訳じゃないし…」
Bを選んだ参加者「お金を貯めておけば、漠然とした不安が現実になった時になんとか対処できるんじゃないかと思うから。」
Bを選んだオトナ参加者「将来の不安は誰しも持っていると思いますが、考えても結果は同じと思っています。そのエネルギーを違うことに使いたいですね。
過去はどうにもならないし、将来はどうなるかわからない。だから今を一生懸命生きる。
それで、今後困った時にお金を持っていればある程度乗り切れるだろうから、お金を貯める。」
先生「今のお話しの中に、ハイデガーの言葉が含まれていましたね。『未来』はまだ無いでしょ?『過去』はどうです?存在しますか?」
参加者「今あるかっていうことなら、無いです。」
先生「そうだよね。過去は既に無い。未来はまだ無い。ということは、存在しないものを勝手に想像して不安がっていても仕方がないんじゃない?
あるのは今だけ。そして、今は永遠に続くってことに気がつきませんか?」
参加者「更新され続けて、ですよね。」
先生「そうですね。常に更新され続けて永遠に存在するのは『今』だよね。
このハイデガー的な発想をしていると、今が大切なんだ、今頑張ればいいんだってことになる。
そういう意味では、お金を貯めるという今の行為が現実的というのは間違いない。」
とは言え「所詮お金」という考え方では、不安解消のためにどれだけお金を貯めても安心できません。
結局、お金の価値をまったく発揮させることなく終わってしまうでしょう。
浪費はよくないですが、お金という武器は計画的に、有効に使うということを念頭に置いておくのがよさそうです。
先生から提示されたのは、アリストテレスのデュナミスとエネルゲイアという対になる概念です。
哲学メモデュナミス:可能態。まだ形になっていない、可能性を示すもの。
エネルゲイア:現実態。現実に形になったもの。
先生「これは植物に例えるとわかりやすい。まず、デュナミスは?」
参加者「種ですか?」
先生「そうです!植物にとってのデュナミスは種です。では、エネルゲイアは?」
参加者「花ですね!」
先生「そのとおり!中高生である君たちって、デュナミスの塊じゃないですか?では、君たちのエネルゲイアは何だろうか?」
参加者「うーん、いつ頃のことを考えたらいいでしょうか?」
先生「いい質問ですね。どの時点でもいいですよ。」
参加者「じゃあ、自分が成長したと思えた時。」
先生「そうです。みなさん十分わかってくれているようですね。
例えば進学して大学生になった時はエネルゲイアと言えます。でも、大学生はまだ成長の余地がかなりあるよね?
ということは、大学生はその次のステップのためのデュナミスとも言えるんです。
つまり、デュナミスとエネルゲイアの関係は、成長していく運動の過程を強調するためのアリストテレスの言葉なんですよ。」
生まれてきたばかりの時はデュナミスそのもので、どうなるかわからないからこそ面白いということですね。
参加者「変化というか、分岐がたくさんある感じです!」
先生「分岐っていう発想は面白い。君たちはデュナミスの象徴であり、どのようなエネルゲイアを示していくかということに勝負がかかってる。
腹の底から納得できるエネルゲイアなのか、何かしら後悔がつきまとうものなのかで全然違いますよ。」
ここで先生から、もう一歩考えを深めていくための質問がありました。
先生「先ほど、君たちのエネルゲイアとして大学生という一例が出ましたが、その先も社会人になって…というように、エネルゲイアの形ってどんどん変容していく。これって完成する時がくると思いますか?」
参加者「死が完成でしょうか…いや、多分無いと思います。常に成長し続けるから。成長が止まった時が完成になるんですかね。」
参加者「無いと思います。生きてるうちは成長する可能性があると信じていたいから。」
先生「なるほど。実はアリストテレスは、エネルゲイアの到達点を明確にしています。
デュナミスの可能性を出し切ってしまった瞬間に頂点に達する、それをエンテレケイアと言っています。
でも、この完成形は人間には存在しません。」
参加者「寿命に限界があるからですね。」
先生「そうです。以前にも話したことがありますが、人間は全ての能力を出し尽くす前に寿命が尽きて死んでしまうんです。エンテレケイアの状態をどれだけ求めても、寿命がそれを許さない。一方で、毎日別のエネルゲイアを示す能力を持っているのが人間だから。
『将来が不安。どうしたらいい?』なんて馬鹿馬鹿しくないですか?」
参加者「考える意味がないと思います。考えても未来が変わるわけではないし。」
参加者「今思っている将来が来た時に、また次の将来が出てくるので、ずっと不安でないといけなくなる。
そんなのは無駄なんじゃないかと思います。」
先生「そうですよね。突き放した言い方をすれば、将来が不安と思うのは、横着な人なのかもしれない。
努力するのが面倒なんじゃないでしょうか。」
参加者「自分が今すべきこと、できることをすればいいのに。」
先生「もうみんな気付いていると思うけど、人間は常にデュナミスなんだから、将来に対する不安を持つ必要は全くないです。
今日ちょっと努力をすれば、明日には今日のエネルゲイアになっているんだからね。今、何をするかによって、明日のエネルゲイアが変わるということです。」
参加者「初めは将来がどうなるのかっていう不安を持ってると思っていたけど、こうして考えてみると『どうなるんだろう?』という興味だったのかな、と思いました。」
参加者「自分はあまり動いていないので、結構耳の痛い話でした。」
話題は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『鎌倉殿の13人』、『心地観経』などにも及びました。
どれも、「今を変えれば、未来が変わる」ということに繋がっていきます。
先生「今日は色々な話をしました。みなさん、今この瞬間に何かを学びましょう。本を読めばいい。誰かと話せばいい。今日のデュナミスと明日のデュミナスに変化が起こらないのは寂しい、勿体ないことだと知っておいてください。」
常にデュナミスとエネルゲイアの更新を続けることを意識すれば、将来を不安に思う前に、今を変化させていこうという気持ちになれそうです。
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